加工の第一段階、「墨付け」をするための道具
一風変わった形状をしているこの道具、一見すると何だか工芸品のようにも見えます。
「墨壷」と呼ばれるこの道具は、木材を加工するときの切断や切削の目安を実際の木材の表面につけるための道具です。 木材加工の入口の道具と言っていいでしょう。
墨壷は「壷車」ここに巻かれる「糸」、墨を滲み込ませた綿を入れた「池」で成り立っています。(下図参照) 歴史的にはおそらく中国文化とともに日本に入ってきたと考えられています。 使い方は、糸に繋がる「軽子」を引き出し、直線を引きたい部分にあてます、軽子を木に差し込んで固定し、本体部分とテンションをつけながら中央を指でつまんで持ち上げ、はじきます。そうすると墨の付いた糸が木材に打ち付けられ、長い直線が木に引けるという訳です。
墨壷は、「墨さし」という、竹を割って加工したヘラのような形状をした道具とセットでも使われます。この「墨さし」という道具は、筆のようなもので、墨壷を使用するほどでもない短い直線を描いたり、木材の仕口部などがどの木材と組み合わせるのかなどの符号を木材に書き込んだりするためのものです。(下写真参照)ヘラのようになった部分、もしくは反対側のペン先のような部分に、墨壷の墨を付けて使用します。
また、加工の入口の道具である墨壷、墨さしは、曲尺(さしがね)、釿(ちょうな)とともに、釿始めと言われる正月の儀式に神前にお供えする道具としても知られています。
墨壷や墨さしは基本的に大工が自作する道具として発展してきましたが、墨壷の中には木を彫り込んで、流麗な模様や、彫刻を付けられているものもあり、工芸品としても知られている道具です。明治の中期頃には、墨壷を専門につくる職人も現れましたが、それでも、創意工夫を凝らして芸術的な墨壷を自作する大工は多かったようです。
※参考『鋸・墨壷大全』(誠文堂新光社)
実際に使っているところを動画で見てみましょう
墨さしができるまで
■ 墨さし
一般に竹からできており、片端をヘラ状に削って、先端が細かく裂いてある。
また、反対側は細く削り、先端をばらけさせ、筆がわりに使う。